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高速・高解像力の液体可変焦点レンズ ーダイナモルフレンズー

概要

近年,液体界面を屈折面とした可変焦点レンズ技術が登場し注目を集めている. 液体界面は,変形が容易であることに加え, 理想的には形状が球面となるため可変焦点レンズの屈折面として適している. 特に液体の濡れ性が電気的に制御できることを利用して面の曲率を制御する方式は複数の企業により研究・開発され, 実用に非常に近い段階に入っている. これらは特に光学系の小型化・省電力化を実現するためのキーデバイスとして開発されている.

一方,可変焦点レンズのもうひとつの可能性として,焦点距離制御の高速化があげられる. 既存のほとんどの焦点距離制御手法は,光学系を構成するレンズ(群)位置を動かすことで実現されており, その高速化は難しかった. しかし,可変焦点レンズでは表面形状のわずかな変化のみで焦点距離を大きく変えることが可能であり, 高速化が容易であることが期待される.

我々は積層型ピエゾアクチュエータを利用する高速応答を実現する駆動原理と, 実用的な収差量の可変屈折面である液-液界面とを組み合わせることで, 高速かつ高解像力の可変焦点レンズを研究・開発している. 我々の提案する可変焦点レンズは,図1に示すように堅い容器の内部に2種類の互いに混ざらない液体を入れた構造を持つ. 2種類の液体は容器内に作成された円形開口で互いに接しており,この部分が光線を屈折する面として機能する. 界面形状はピエゾアクチュエータが伸縮することに伴う容積変化を利用して変化させる(図1(a)-(c)). この方式では液-液界面がダイナミックに変形するので, 我々はこの方式の可変焦点レンズをダイナモルフレンズ(Dynamorph Lens)と名付けた.

実際に試作したダイナモルフレンズの写真を図2に示す. 試作したレンズは,絞り径3mmを持ち,液体の初期状態に依存して, 約-50~50[D]の範囲の屈折力をもたせることができる. ([D=1/m]は焦点距離の逆数) ピエゾアクチュエータの伸縮によってこの初期状態から最大で50[D]程度の屈折力変化を起こすことができ, 80.3nmの波面収差(二乗平均)と71.84[lp/mm]の解像力が測定されている. このレンズを用いて高速に焦点位置を切り替えながら電子基板を撮影したところ,約2[ms]の応答速度が観察された. 図3に高速に焦点位置を切り替えながら電子基板を観察している時の像を2200[fps]の高速カメラで計測した結果を示す. また,ページ下部に試作したダイナモルフレンズの動作動画と本実験の動画を示す.

Cross-sectional figure of DML and it's focusing mechanism Photograph of DML
図1 ダイナモルフレンズの断面図と可変焦点の仕組み 図2 試作したダイナモルフレンズの写真
Sequencial images during quick focus switching
図3 高速にフォーカス位置を切り替えながら撮像した結果.図中(a)には高速カメラで撮像された連続写真,(b)と(c)にはそれぞれピエゾアクチュエータへの位置指令値と実際のピエゾアクチュエータ応答,(d)には対象を横から見た時の形状,が示されている.画面左上のコンデンサー上面から画面右下の基盤表面まで焦点面を切り替えており,時刻(Time)0で切り替えを開始してから2msでほぼ切り替えを終えていることがわかる.なお,コンデンサー上面から基盤上面までの距離は約11.6mmであった.

動画


試作したダイナモルフレンズの動作動画




1秒間に100回の割合で焦点面位置を切り替えている様子の動画

参考文献

  1. Hiromasa Oku and Masatoshi Ishikawa : High-Speed Liquid lens for Computer Vision, 2010 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2010) (Anchorage, 2010.5.5) / Conference Proceedings, pp.2643-2648 [PDF (1.6MB)]*IEEE
  2. Hiromasa Oku and Masatoshi Ishikawa : High-speed liquid lens with 2-ms response and 80.3-nm root-mean-square wavefront error, SPIE Photonics West 2010 (San Francisco, 2010.1.25) / Proceedings, 7594-05 (Oral Session) [PDF (2.1MB)]
  3. Hiromasa Oku and Masatoshi Ishikawa : High-speed liquid lens with 2 ms response and 80.3 nm root-mean-square wavefront error, Applied Physics Letters, Vol.94, 221108 (2009) [PDF (312K)] [doi:10.1063/1.3143624] *AIP
  4. 奥寛雅,門内靖明,石川正俊 : ミリセカンド高速液体可変焦点レンズとそのロボットビジョン応用への可能性,第26回日本ロボット学会学術講演会(神戸,2008.9.11)/予稿集CD-ROM, 3I1-03 [PDF (944K)]
  5. 奥寛雅,門内靖明,石川正俊 : ミリセカンド高速・高解像力液体可変焦点レンズ, 第69回応用物理学会学術講演会 (名古屋,2008.9.2)/講演予稿集,2a-ZG-9
  6. 奥寛雅,石川正俊:液体界面を屈折面とする高速可変焦点レンズの構造, 日本光学会年次学術講演会・日本分光学会秋季講演会,Optics & Photonics Japan 2006 (東京,2006.11.9)/Post-Deadline 論文集, pp.10-11
  7. Hiromasa Oku, Masatoshi Ishikawa:Rapid Liquid Variable-Focus Lens with 2-ms Response, 19th Annual Meeting of the IEEE Lasers & Electro-Optics Society (Montreal, 2006.11.2)/Proceedings pp.947-948 [PDF (527K)] *IEEE

リンク


*AIP © 2009 American Institute of Physics. This article may be downloaded for personal use only. Any other use requires prior permission of the author and the American Institute of Physics. The article appeared in H. Oku et al.,Appl. Phys. Lett. 94, 221108 (2009) and may be found at http://link.aip.org/link/?APL/94/221108.

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