|
センサ フュージョン(Sensor Fusion) |
複数のセンサ情報 (同種または他種) から,
単一のセンサでは得られない有用な情報を抽出する技術の総称.
センサ融合あるいはセンサ統合とも呼ばれる. 正確にはセンサデータフュージョン (Sensor Data Fusion) と呼ぶが,
省略形であるセンサフュージョンが定着している. 類似用語として, マルチセンサ (複合センサ),
インテグレーション (統合) があり, 心理学分野では, バインディング (結合) も見られる. また, 発展系として,
情報統合 (Information Fusion) やセンサネットワーク (Sensor Network) の分野があり,
これらの分野の処理構造の基盤となっている. センサ自体の複合化, センサの知能化に対するセンサ情報処理の構造論,
ネットワーク構築や処理ハードウェアのアーキテクチャ論, 処理の計算構造に対する信号処理・統計処理や信号処理,
論理構造に対する人工知能や知識処理, 処理構造が未知の場合の適応・学習理論, 全体システムの設計論等が議論されている.
|
| 関連用語: |
知能システム, 階層的並列分散構造,
感覚運動統合, タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
ダイナミクス整合, センサ ネットワーク,
アクティブ センシング,
インテンショナル センシング |
|
|
感覚運動統合(Sensory Motor Integration) |
従来は, 感覚系で外界の認識をした後,
運動系にフィードバックされ行動が発現されるという直列モデルが主流であったが, 感覚系と運動系の関係は,
これだけではなく, 認識のための運動の発現や下位のセンサフィードバック系の上位モニタとしての処理系等,
様々な形で統合的な処理モデルが考えられるようになった. このような処理構造を感覚運動統合と呼ぶ.
実際には, 脳のように超並列的な情報処理機構も必須の構成要素となる.
工学的に感覚運動統合システムを実現するには, アクチュエータやセンサ, コンピュータやアルゴリズム等,
感覚系・処理系・運動系を矛盾なく統合し, タスクや外界を含めて系全体を統一的に扱うことが必要となる.
本研究室では, 機能面と時間特性の両観点から感覚運動統合を行った高速ロボットを開発している. |
| 関連用語: |
知能システム, 階層的並列分散構造,
タスク分解, ダイナミクス整合,
センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック,
アクティブ センシング |
|
|
高速ロボット(High-speed Robot) |
産業用ロボットは,
プレイバック動作に対しては高速の動作が実現されているが, センサフィードバック,
特に視覚フィードバックを導入すると認識系の処理に起因して動作が遅くなる. また,
人間の動作を目標とするヒューマノイドロボットをはじめとする知能ロボットでも,
感覚系・認識系の遅さに起因して, 全体の動作は遅い. 機械システムとしてのロボットの高速動作の動作限界は,
人間の動作に比べて速いので, 本研究室では, 感覚系・認識系を高速化することにより,
ロボットの高速化を目指している. 本研究室が考えるロボット研究の目標は,
感覚系・認識系も含めて人間をはるかに超える速度で動作する知能ロボットであり,
人間の目には見えない速度で動作する知能ロボットである. |
| 関連用語: |
知能システム, 階層的並列分散構造,
感覚運動統合, タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
ダイナミクス整合, センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック,
ダイナミック マニピュレーション |
|
|
知能システム(Intelligent System) |
「知能」をどのように考えるかは,
従来からチューリングテストをはじめとして様々な考え方が存在するが, ここでは,
計算機の中=情報の世界の中だけの知能ではなく, 実世界 (real world) の中で, 感覚系・認識系 (センサ技術),
処理系 (コンピュータ技術), 運動系・行動系 (アクチュエータ技術) が,
様々に変化する実世界と適応的にインタラクションするシステムと考える. この定義は,
従来の考え方を包含し, 実世界を対象とするため, より困難な問題設定となっている. この知能システムの実現には,
「知能」の計算理論 (computational theory) の構築, 特に階層的並列処理構造の構築,
その理論を実現するための情報表現とアルゴリズムの構築,
特に内部モデル (internal model) と情報表現 (representation) 並びにフュージョンアルゴリズムの設計,
さらには実際に実現するスマートセンサやスマートアクチュエータを含めたハードウェアの三つの要素が重要となる.
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 階層的並列分散構造,
感覚運動統合, タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
ダイナミクス整合, センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック |
|
|
階層的並列分散構造(Hierarchical Parallel Distributed Architecture) |
知能システムの分野では,
脳の情報処理構造にヒントを得て, 脳に限らず広く一般的な知能システムの処理構造のモデルとして,
感覚系, 処理系, 運動系を統合し,
機能ごとの処理モジュールが階層的かつ並列に接続された分散処理構造を基本とするモデルがAlbusによって提案されている.
このモデルにおいて, 感覚系・認識系に入力されたセンサ情報は, 求心性情報 (afferent information) として,
上位の階層に向けて階層ごとに処理されるとともに, 情報の抽象度を上げていき, 処理後の情報は,
運動系・行動系を遠心性の情報 (efferent information) として, 下位の階層に向けて, 具体的な信号に変換されて,
アクチュエータに伝えられる.
各階層では, それぞれの情報表現 (representation) と時定数 (time constant) により処理が行われるとともに,
多層・多重にフィードバックループが形成されている.
上位の層では, 判断や計画という論理構造を実現する知識処理が行われ, 下位の層では,
高いリアルタイム性の制約の中で並列性の高い信号処理が行われる.
この構造の効果的な活用のためには, 目的に対するタスク分解が鍵となる (タスク分解の項を参照).
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 知能システム,
感覚運動統合, タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
ダイナミクス整合,
センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック,
センサ ネットワーク, アクティブ センシング,
インテンショナル センシング |
|
|
タスク分解(Task Decomposition) |
階層的並列分散構造を有する知能システムの構築において,
目的の機能を分散化された処理モジュールに実装する際に,
全体のタスクを処理モジュールごとに分解した上で実装する必要がある.
これをタスク分解 (task decomposition) と呼ぶ. タスク分解の方法の違いにより,
知能システムの動作が大きく変わるので重要な課題であるが,
一般的な解はなく, いくつかの設計思想が提起されている. 基本構造としては,
感覚系→処理系→運動系という分解の直列分解 (sequential decomposition) と,
並列のフィードバックループを仮想に配置した並列分解 (parallel decomposition) に分けられるが, 実際のシステムでは,
この両者の複合構造となる場合が多い. 直列分解は, 各モジュールの設計が容易であるという利点があるが,
高度な処理が間に挟まると全体が遅くなるという欠点がある. 一方, 並列分解は処理速度の面では優位となるが,
ヒューリスティックにしか分解が見つからないという欠点がある. 本研究室では, 少ない次元のアクチュエータに対して,
並列モジュールからの出力の単純加算で出力するため,
処理モジュールの出力が時間的又は空間的に独立となるように設計する直交分解 (orthogonal decomposition) を提案している.
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 知能システム,
階層的並列分散構造, 感覚運動統合,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
センサ フィードバック,
ダイナミクス整合, センサ ネットワーク |
|
|
ダイナミクス整合(Dynamics Matching) |
本研究室が提唱する高速のセンサフィードバックを行う知能システムに対する設計思想.
実世界で扱おうとする対象 (ロボット本体の物理系も含む) には固有のダイナミクスがあり, サンプリング定理により,
対象の完全な把握・制御にはシステムのすべての要素が対象のダイナミクスに対して十分な帯域を確保することが必要である.
そこで, ダイナミクス整合は, 対象のダイナミクスをカバーするように, 感覚系 (センサ), 処理系 (コンピュータ),
運動系 (アクチュエータ) を設計することにより,
全体として整合性の取れた知能システムを実現することを意味している. もし, 一部に遅いモジュールがあると,
対象のダイナミクスに対して不完全な情報での制御となり,
全体システムはそのモジュールのダイナミクスに制約されることになる.
現在市販されているサーボコントローラのサンプリングレートは1kHz程度なので,
機械システムを想定した現実的な知能システムでは1kHzが上限の目安となる. |
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 知能システム,
階層的並列分散構造, 感覚運動統合,
タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック,
センサ ネットワーク |
|
|
リアルタイム パラレル プロセッシング(Real Time Parallel Processing) |
リアルタイムプロセッシングとは,
何らかの意味で定義された時間内に処理を実現することを補償した処理系を意味し,
ロボットのような実世界で高速に動くシステムでは必須の技術である. 並列処理は, 演算処理の高速化に有効であるが,
処理モジュール間のデータ転送や演算の実行時間の変動などにより,
例えばプライオリティインバージョン (priority inversion) 等の問題が起こり,
全体として処理時間の制御が難しくなるため, ロボットに求められるリアルタイム性と両立させることは極めて困難になる.
従って, 多くの場合, 目的の機能に対してアドホックに処理を設計しているのが現状である. |
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 知能システム,
階層的並列分散構造, 感覚運動統合,
タスク分解, 高速ロボット,
ダイナミクス整合, センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック,
センサ ネットワーク |
|
|
センサ フィードバック(Sensor Feedback) |
環境やロボットの状況をとらえたセンサ情報をロボットの動作にフィードバックすること.
通常は, 視覚センサや触覚センサといった,
外界の変化や外界とロボットとの相互作用等を捉えるセンサからの情報に対するフィードバックのことをさし,
環境や対象の変化, ロボットとの相互作用等を認識・理解し, ロボットの行動にリアルタイムに反映させる制御のことをさす.
従来の産業用ロボットは, プレイバックと呼ばれる同じ動作を繰り返すことを目標に作られており,
繰り返し動作として精度や速度の仕様が設定され, 評価されていたが, センサフィードバックモードの場合は,
繰り返し動作とはならないため, 精度も絶対精度あるいは対象との相対精度で評価すべきで有り,
動作速度もセンサ情報処理系の認識・理解の処理時間も含めて, 設計する必要がある.
知能システムとして, 高速ロボットを実現するためには,
本研究室が提唱するダイナミクス整合のような設計思想が必要であり,
なおかつ非繰り返し制御に対応するバックラッシュレスの機構の導入が必須である.
|
| 関連用語: |
ビジュアル フィードバック,
センサ フュージョン, 感覚運動統合,
知能システム, 高速ロボット,
階層的並列分散構造,
ダイナミクス整合, センサ ネットワーク |
|
|
動的補償(Dynamic Compensation) |
ロボットによる高速かつ高精度な位置決めを実現するのに, 機械的なバックラッシュ, モデル化誤差,
較正誤差等を含む動的な不確実性に対する処理は, 非常に困難な問題である. 特に,
生産性の更なる向上の目的で, 通常の応用のために設計された汎用ロボットを高速動作させる場合,
それらの不確実性による影響も顕著に現れると考えられる. この問題を解決するため,
高速視覚フィードバック及び軽量の補正アクチュエータの融合による動的補償手法が,
我々の研究室によって提案された. 動的補償手法は, 以下のように3つの基本的な方針によって構成されている.
(1) メインロボットが粗い高速接近の役割を担当するが, 安定性を確保する前提で不確実性については考慮せず,
精密な位置決めを補償アクチュエータに任せる. (2) 機械的なバックラッシュ, モデル化誤差,
較正誤差等を含んだ動的な不確実性は, 高速ビジョンで観測するロボットとターゲットの間の相対的な位置情報として表される.
(3) 全体的な不確実性は, 高速に反応できる補正アクチュエータによって補償される
(補償サイクルの遅延が十分に小さいと仮定する).
|
| 関連用語: |
ビジュアル フィードバック,
高速ロボット, ダイナミック マニピュレーション,
ダイナミクス整合 |
|
|
ビジュアル フィードバック(Visual Feedback) |
センサフィードバックの中で, 特に, 画像情報に対するフィードバック制御を意味する.
センサ情報の中で視覚情報は, 2次元パターン情報であるため, 画像処理の時間がフィードバックレートに内包されるため,
従来はリアルタイムフィードバックが困難とされていたが, 高速画像処理の導入により,
リアルタイムのビジュアルフィードバックが可能となる. 画像情報をフィードバックする先は, ロボット本体の他にも,
対象物, 照明, 撮像カメラなど様々な形が考えられる. 例えば, ロボットの作業や把持の制御はもちろんのこと,
顕微鏡像の制御を行うマイクロ ビジュアル フィードバック,
アクティブ ビジョン,
ターゲット トラッキング等への応用が考えられている. また,
画像→世界座標系→作業座標系という絶対座標系をベースとした制御も考えられるが,
画像に写りこんだ対象とロボットの像からそれらの相対的な座標から制御を行う相対座標制御を導入することにより,
座標変換誤差を排除することが可能となる. |
| 関連用語: |
センサ フィードバック,
センサ フュージョン, 感覚運動統合,
知能システム, 高速ロボット,
階層的並列分散構造,
ダイナミクス整合,
マイクロ ビジュアル フィードバック |
|
|
センサ ネットワーク(Sensor Network) |
ネットワークの各アドレスに何らかのセンサを配置し,
そのセンサ情報をネットワークで活用することを目的としたネットワーク. 従来のネットワークが,
ノードとしてコンピュータを想定していたのに対し,
センサ情報を対象とすることにより, ネットワーク上で物理世界の情報の把握が可能となり,
ネットワーク上に接続されたノードからそれらの情報を利用することが可能となる.
サイバーフィジカルシステム (cyber physical system) という考え方も提唱されている.
現状では, 従来のネットワーク構造にどのような形でセンサ情報を接続するかが課題となり,
プロトコルの改良が行われているに過ぎない. 現在のネットワーク構造は,
リアルタイム性, 情報の空間密度・時間密度, 安全性等の観点から,
本質的な意味でセンシングの基本構造を実現できる構造になっていない. 特に, 本研究室が提唱・実践する,
センサ フュージョンや
感覚運動統合に不可欠な階層的並列分散構造上の
タスク分解や
リアルタイム パラレル プロセッシングの基盤を実現し,
ダイナミクス整合に基づく,
アクティブ センシングや
インテンショナル センシングといったセンシングの構造を実現できる構造が,
センサネットワークに必要である.
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン, アクティブ センシング,
感覚運動統合, 階層的並列分散構造,
タスク分解,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
ダイナミクス整合,
インテンショナル センシング |
|
|
アクティブ センシング(Active Sensing) |
一般的にはいろいろな意味が与えられているが,
本研究室では, センシング・認識にアクチュエータを活用するセンシング手法をさす.
未知の環境に対して事前のセンシング行動や様々な補償行動が考えられる.
具体的には, 局所的なセンサで大局的構造を探索する際の対象(位置・特徴)の探索や局所性の回避(形状),
同様の目的であるが, 局所的に高分解能のセンサを用い, 大局的に走査することで実現される空間分解能の向上,
アクチュエータ系の時系列信号とその応答から微細形状や表面テクスチャの最適化センシング, さらには,
アクチュエータの時間特性を制御できることから, センサの動特性の補償, 特に微分的動作の補償等が考えられる.
また, 自己の行動と認識との関係から,
環境と主体の行動との間の関係で認識・行動が成立するとするアフォーダンス(J.J. Gibson), 知覚循環 (U. Neisser),
選択的注意 (selective attention),
自己受容性に基づく自己認識等の考え方に強く関係している.
特に, 視覚ではアクティブ ビジョンと呼び,
触覚ではハプティックスという研究分野として注目を集めている. |
| 関連用語: |
アクティブ ビジョン, 自己受容性, 自己認識,
ハプティックス, センサ フィードバック,
インテンショナル センシング, ターゲット トラッキング |
|
|
インテンショナル センシング(Intentional Sensing) |
センシングは,
求める情報が存在する解空間に対して, 計測値や拘束条件を使って解が存在する空間や領域を狭めていったり,
使える情報が多い場合には統計的な処理で最も適切な解を求めたりする過程である.
少ないセンサ情報で多次元の情報空間を対象とする場合には,
使える情報が対象の空間に対して少なくなる不良設定問題となったり, 広い情報空間の中の探索問題となったりする場合が多い.
この場合, 解を拘束するには, 計測値ばかりでなく, 過去の経験や物理制約等を拘束条件として用いることが多いが,
センシングには, センシングの目的が有り, その目的の明示的な記述を制約条件として使い,
対象の情報空間を制約することも可能である.
そのような方法をインテンショナルセンシングと呼ぶ. この考え方は,
1991年~1995年に実施されたセンサフュージョンプロジェクトで提唱されたものであり,
感覚運動統合における能動的認識において, 大きな役割を果たしている. |
| 関連用語: |
感覚運動統合, センサ ネットワーク,
アクティブ センシング,
アクティブ ビジョン |
|
|
触覚センサ(Tactile Sensor) |
人間の皮膚の受容器に相当するロボット用センサ.
一般には, 接触に伴うセンサ表面の圧力分布を計測するセンサを指す場合が多いが,
力センサや温度・熱流センサを組み合わせたものもある. 柔軟な弾性体の歪み計測を行うのが一般的であるが,
必要な柔軟性の確保と耐久性の維持, 様々な3次元表面形状への対応, 場合によっては大面積化,
分布情報取得のための回路技術, 取り付け空間が狭隘であるため配線量の削減等,
通常の電子デバイスには見られない設計条件が存在する. センサを固定した利用法もあるが,
センサを可動部に取り付けた場合は, センサの運動が計測に強く影響するので, 能動性の強いセンサと言われている.
触覚センサを有効に働かせるための運動を触運動と呼ぶ. また,
触覚を運動と合わせて知覚構造を考えることをハプティックスと呼ぶ. |
| 関連用語: |
ハプティックス, センサ フィードバック,
センサ フュージョン, アクティブ センシング |
|
|
ダイナミック マニピュレーション(Dynamic Manipulation) |
従来のマニピュレーションが低速で準静的な動作であったのに対して,
高速かつ動的な動作を基盤としたロボットマニピュレーションの総称. 例えば,
人間で言えばスポーツ時に見られるような躍動的な動作でかつダイナミクスの限界に近い動作の実現を目指すものであり,
従来のマニピュレーションでは実現しえなかった動作の実現を目指すものである.
プレイバックやフィードフォワード主体の制御では, 限定された軌道でのダイナミックマニピュレーションが行われていたが,
これらの方法も含め, 一般的に, 対象の加速/高速運動に追従する認識能力や運動能力が不足していたため,
センサフィードバックを用いたマニピュレーションでは実現が困難であった. この問題に対して, 本研究室の高速ロボットでは,
広い帯域をカバーする高速のセンサやアクチュエータを開発するとともに,
対象の不安定状態および非接触状態の積極的な利用や高速動作を優先した少ない自由度での器用な操りの実現等,
センサ・アクチュエータ系の性能を限界まで活用することにより, 新たなダイナミックマニピュレーションの創出を目指している.
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン, 感覚運動統合,
高速ロボット, 階層的並列分散構造,
タスク分解, ダイナミクス整合,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
センサ フィードバック, ビジュアル フィードバック |
|
|
サンプリング定理(Sampling Theorem) |
サンプリングとは, アナログ信号(原信号, 連続値)の値をある間隔ごとにサンプル (離散信号) として取り込むことを意味し,
その際の間隔をサンプリング間隔, この逆数をサンプリング周波数と呼ぶ.
サンプリング定理とは, ある帯域制限信号の最大周波数に対して,
その周波数の2倍以上のサンプリング周波数で原信号をサンプリングすることにより,
サンプル値から原信号を完全に復元できることを意味する. このことから, システムの設計に当たっては,
対象の帯域を把握あるいは設定した上で,
2倍以上の帯域を有するセンシング系を用いることが, 対象を完全に把握するための必要条件となる. しかし,
現実には, 対象の帯域やサンプリング周波数をどのように設定するかは, システムの動作周波数の設定とともに,
極めて難しい問題である. そこで, このことも含め制御系設計を考えると,
設定した帯域の2倍ではなく, より帯域を広くとることが望ましく, 例えば,
ロボットの制御 (時間軸) では, 10倍程度に設定することを勧めている教科書も存在する.
本研究室で扱うビジュアルフィードバックでは,
一般的なサーボコントローラのサンプリングが1msに設定されている場合が多いので,
ダイナミクス整合の観点から視覚情報処理のフレームレートの上限を1,000fpsで実現することを基本としている.
このことは, 理論的には500Hz以下の帯域で対象の把握が可能であることを意味しているが, 対象の制御という点では,
対象やシステムの動特性に依存して,
もう少し下の帯域 (例えば, 100Hz~500Hzを上限とする帯域) をカバーしていることになる. |
| 関連用語: |
ダイナミクス整合,
リアルタイム パラレル プロセッシング, フレームレート |
|
|
人間機械協調(Human-machine Cooperation) |
人間と機械システムまたはロボットとが, ある決まったタスクを協働して行うことであり,
動作支援, 作業支援, パワーアシストなどの応用が期待されている.
本研究室では, 感覚運動統合に基づいて開発した高速ロボットを用いることにより,
人間よりも高速な認識・処理・運動を可能とし, 人間の動作に対して低遅延の応答性を実現することで,
人間との高速な協調動作を達成している. 例えば, 人間とロボットとが把持した物体の姿勢制御において,
力センサや触覚センサを用いず, 高速ビジュアルフィードバックにより姿勢制御手法の簡易化に成功している.
また, 人間だけでは困難なマイクロメートルオーダの嵌め合い作業に対して,
ロボットが位置合わせを補助することにより, 本タスクを実現している.
特に, 機械システムおよびロボットの高速性は人間の動作の先読み・先回り支援を実現するものである. |
| 関連用語: |
感覚運動統合,
高速ロボット,
ダイナミック インタラクション |
|
|
柔軟体制御(Flexible Object Control) |
従来, 柔軟体制御はロボットの低速動作によって, 静的もしくは準静的な環境下において実現され, その高速化は困難とされてきた.
これは柔軟体のモデル化およびパラメータ同定が困難であり, かつ時々刻々変形する柔軟体の形状の把握が困難であることが主たる要因である.
本研究室では, 高速に柔軟体を操作することによりモデルの簡易化に成功し, ロボットの軌道生成を容易にしている.
例えば新体操のリボンを高速に操作することで, 手先の運動にリボンの変形が追従することを利用したものである.
これにより, 連続体の偏微分方程式や多体系の連立微分方程式では表現することなく, 代数方程式に書き換えることができる.
この方法に加えて高速ビジョンを用いることにより, 柔軟体の状態をリアルタイムで把握することにより, 紐の動的結び操作や布の動的折りたたみ操作等を実現している.
|
| 関連用語: |
高速ロボット,
ビジュアル フィードバック,
ダイナミック マニピュレーション |
|
|
二足走行(Biped Running) |
従来の二足ロボットは, 運動性能と認識機能に関してハードウェアのレベルで十分な能力をもっていないため,
アスリートのようなダイナミックな運動には不向きであった.
さらに, バランスを崩しても元の状態へ復帰できる許容範囲が狭いため,
その狭い範囲から外れないように事前に動作を計画する必要があり, 複雑で計算コストの高い制御手法が主流となっていた.
一方, 本研究室では独自に開発した2つの要素技術を融合することで, 簡易な制御手法によって高速走行を実現している.
要素技術の1つは高速二足走行機構で, 軽量かつ高出力なモータによって, 地面を力強く蹴って加速する動作と,
空中で着地姿勢へ高速に復帰する動作が可能となっている.
もう一つの要素技術は高速ビジョンで, 高速カメラを用いて1秒間に600枚の処理を行い,
ロボットの状態・姿勢を高速に認識することによって, 走行姿勢を安定に保つことを可能にしている.
これらによって, 不安定な姿勢でも転倒を回避するための瞬間的な反応動作を可能とすることで,
より前傾した姿勢を取ることが可能となり, 視覚フィードバックを主体とした直観的な制御手法を実現している.
|
| 関連用語: |
センサ フュージョン,
感覚運動統合,
高速ロボット,
ダイナミクス整合,
リアルタイム パラレル プロセッシング,
センサ フィードバック,
ビジュアル フィードバック |
|
|
インピーダンス制御(Impedance Control) |
外力に対するロボットの応答特性を所望の機械的インピーダンス (慣性・粘性・弾性) で表現する力制御手法であり,
目標位置に対する誤差を許容して力の緩衝を実現することが出来る.
従来のインピーダンス制御は, ロボットを押せば押すほど元の位置へ戻るための反発力が強くなる弾性変形モデルで構成されていたため,
外力を自然に受け流すような可塑的挙動が困難であった.
これに対して, 我々の研究室では, 衝撃吸収によって生じるバックドライブモーションを“ロボットの塑性変形”と捉えるコンセプトを提案し,
塑性変形モデルに基づいた低反発特性を有するロボット制御を実現している.
このアーキテクチャを実現する研究として, 機械的バネとソフトウェアダンピングを統合したビジュアルショックアブソーバの開発や,
サーボ制御により全てのインピーダンスを任意に調整可能な制御則が構築されている.
また, 塑性変形と弾性変形の制御モードを各部分空間にそれぞれ割り当てることで,
外力を受け流す方向と外力に反発する方向を分離設定可能な制御則も提案されている.
|
| 関連用語: |
ダイナミック マニピュレーション,
センサ フィードバック,
リアルタイム パラレル プロセッシング |
|
|
ビジュアルエンコーダ(Visual Encoder) |
ビジュアルエンコーダはロータの回転角を高精度且つロバストに計測するための計測手法である.
従来のロターリエンコーダで使われる光学パターンを応用したマーカーを導入し,
高速カメラシステムを用いて得られた画像をビジョン基盤手法で処理することにより,
高速回転系の計測における信頼性の向上を特徴とする.
基本原理として, マーカーに赤, 緑, 青の光の3原色で構成された色ブロックのパタンを配置し,
特定位置にある画素における色変化を追跡することにより回転角が計測できる仕組みとなっている.
色の推移を観測する画素の位置は, RGBカメラにより撮像されるマーカーの画像重心を基準として一意に決まるように設定される.
計測においては3原色を用いることで, 回転角だけでなく正転・逆転が同時に観測できるようになっている.
ビジョン基盤手法の柔軟性とロターリエンコーダの信頼性, 両方が満たされるので,
高速ロボットを利用した非線形高速回転系の制御等への応用が期待される計測手法である.
|
| 関連用語: |
高速画像処理,
高速ロボット |
|
|
|
|