位相差顕微鏡法における遊泳細胞の3次元トラッキング
概要
開発した微生物トラッキングシステム を実際の生物学研究に応用する試みの一つとして, 東京大学大学院医学系研究科生体構造学分野,吉川研究室 と共同で,クラミドモナスの遊泳計測への応用を進めている.
近年,べん毛や繊毛といった運動する微細構造が様々な生命現象に関わっていることが明らかになり, その構造や機能の解明の重要性が増している. べん毛研究におけるモデル生物として,二本のべん毛で遊泳するクラミドモナスと呼ばれる藻の一種がよく研究対象として用いられている. この細胞が自由に遊泳しているところを微生物トラッキングシステムで追跡し, そのべん毛運動を詳細に観測することが本研究の目的である.
べん毛は太さ200-300nmと非常に細いため,その観察には位相差顕微鏡法などの微細構造を可視化する顕微鏡法が不可欠である. しかし,我々が開発したDFDi法は位相差顕微鏡法には適用できないため,高速なオートフォーカスの実現ができなかった. そこで,位相差顕微鏡法における高速オートフォーカスを可能にする手法を開発した. 本手法は DFDiによる細胞群の高速奥行き位置推定手法 を拡張したものであり, 位相差顕微鏡法下でも細胞動径方向の強度分布と細胞奥行き位置との間に線形の関係があると仮定して 細胞の奥行き位置を推定するものである.
位相差顕微鏡法下での線形性の仮定のために奥行き位置推定精度はあまり良くないが, 細胞がフォーカス位置にあるのか,それより上にいるのか,もしくは下にいるのかを推定するには十分な精度をもつため, トラッキング制御を行うには十分な奥行き位置推定精度を持つことを実験的に確かめた. 開発手法でフォーカス位置制御を行い,画像面内方向は細胞位置を画像処理により抽出し, 対象を含む容器位置を自動ステージをフィードバック制御することで, 位相差顕微鏡法下でのクラミドモナスの3次元トラッキングに成功した. 図1に,約88秒間に渡ってトラッキングしたクラミドモナス個体の三次元軌跡を,その軌跡の曲率(a)と遊泳速度(b)とを色で示したプロットを示す.
図1 クラミドモナス3次元遊泳軌跡のプロット.(a)曲率の対数を色で表示した軌跡,(b)速度を色で表示した軌跡.
動画
参考文献
- 奥寛雅,清川博貴,山野隆志,吉川雅英,石川正俊 : 位相差顕微鏡法における遊泳細胞の三次元トラッキング,第17回画像センシングシンポジウム (SSII2011) (横浜, 2011.6.9)/講演論文集,IS1-11
- 山野隆志,清川博貴,奥 寛雅,石川正俊,吉川雅英 : 三次元トラッキング顕微鏡を用いた鞭毛運動の定量解析, 2011年生体運動研究合同班会議(大阪市立大学, 2011.1.7-9)/(演題番号)17
- 山野隆志,清川博貴,奥寛雅,石川正俊,吉川雅英 : 三次元トラッキング顕微鏡を用いた鞭毛運動の定量解析, 第8回クラミドモナスワークショップ (東京大学,2010.12.11-12)/ポスター番号,11
- 清川博貴,奥寛雅,吉川正英 : クラミドモナスの3Dトラッキング,第5回鞭毛・ダイニン機能研究会(東京,2010.3.23)