ER流体クラッチを利用した往復運動駆動システム
概要
従来のモータ駆動システムでは,頻繁な往復運動および繰り返される始動・停止の動作条件はモーターに悪い影響をもたらす.特に高速の往復運動に伴う急激な加減速が過熱を引き起こし,これにより軸受や巻線などの重要なモーター部品に熱膨張と材料疲労が生じる.
高速の往復運動を実現するために,モーター駆動による方向転換方式以外に,クラッチを用いた双方向切り替え方式に着目している.この方式でのモーターは,連続的に一方向の平穏運転を維持することができ,モーターにかかる機械的および熱的応力を大幅に低減し,システムの運用寿命を向上することが期待される.ER流体クラッチの多様な利点を考慮し,我々は図1に示すように,2つの同軸ER流体クラッチを利用して高速な直線往復運動を実現するリニア駆動システムを設計した.
まずはデータ駆動のアプローチで,2つの同軸ER流体クラッチの伝達トルクのモデル化に焦点を当てた.従来法のようにビンガムモデルの粘性項を単純に定数と近似するのではなく,粘性項に電界依存の非線形性を導入することで,ER流体の複雑なレオロジー挙動をより適切に捉える手法を提案した.この枠組みに基づき,同軸クラッチ構造の機械的特性を組み込んだモデル(HEM)および放射基底関数回帰モデル(RBFM)を構築した.さらに,ビンガムモデルから完全に脱却し,放射基底関数ネットワーク(RBFN)およびフィードフォワードニューラルネットワーク(FNN)を用いた直接推定法も検討した.提案した手法は一般的に参照される従来のER流体モデルを上回る性能を示した.特に,ニューラルネットワークによるモデルなしの推定手法は単一の隠れ層かつ少数のニューロンでも優れた推定精度を実現し (Fig.2を参照),計算負荷も最小限で済むため,リアルタイム実装に非常に適していることが明らかとなった.
次に,構築したシステムの高精度な位置制御の実現を着目した.リアルタイム制御を実現するために,単一の隠れ層を持つ単純なフィードフォワードニューラルネットワークに基づいて,トルク伝達の逆問題のモデル化を行った.そして,比例微分(PD)フィードバックループで拡張した計算トルク制御(CTC)の枠組みに基づく位置制御則を構築した.図3に示すように,実験結果から提案する制御アーキテクチャは,モータートルク入力がランダムに変動する外乱下においても,ロバストで高精度な位置制御を実現することが確認した.
Fig.1 開発したシステム
Fig.2 伝達トルクの推定結果
Fig.3 位置制御の結果
参考文献
- S. Huang and M. Ishikawa: Torque Transmission Modeling of Two Coaxial Electrorheological Clutches for Reciprocating Actuation. IEEE Robotics and Automation Letters,vol.10, no.12,pp.12724-12731, 2025. doi:10.1109/LRA.2025.3625469
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黄守仁,石川正俊:ER流体クラッチを利用した往復運動:ニューラルネットワークモデルおよびPD計算トルク法による位置制御の実現.日本ロボット学会誌.(早期公開)