高速オートフォーカスによる高速走査型顕微鏡
概要
顕微鏡下対象の計測や作業の自動化・自律化において, オートフォーカスの実現は最も重要な作業の一つである.というのも, 顕微鏡の焦点面は非常に浅いため,対象が数マイクロメートル上下に動いただけで画像がぼやけてしまい, 対象の情報を正確に計測することができなくなってしまうからである.
一方,顕微鏡には視野の制限があるため,膨大な対象を計測するためには, 視野を移動しながら複数回の撮像を行う必要がある.そのため, 対象や顕微鏡自体を電動ステージなどで移動させながら計測を行う走査型顕微鏡が開発されている. 走査型顕微鏡の計測スループットはその移動速度に依存しているが, 従来はオートフォーカスが低速であったため, オートフォーカスに必要な時間がボトルネックとなってそのスループットには限界があった.
これに対し,我々は細胞を対象として高速なオートフォーカスの実現を可能にする手法として Depth From Diffraction (DFDi) を提案している.この手法は, 細胞を平行かつコヒーレントな光で照明した際にその背後にできる干渉パターンを計測することで, 焦点面と細胞の奥行き方向の位置関係を一枚の画像から推定可能とするものである. この手法を走査型顕微鏡に応用すれば, 従来よりはるかに高速な走査型顕微鏡を実現できることが予想される.
そこで,本研究では,走査型顕微鏡に適したDFDi手法に基づく画像処理アルゴリズムを開発し, それを実装して高速なオートフォーカス機能を有する高速走査型顕微鏡を試作した. 以下にイースト菌を対象とした場合のフォーカシング実験結果を示す. イースト菌は画像上部から下方向に自動ステージにより移動しており, 視野内に対象が入る(b)とすぐにオートフォーカスが開始され, 40ms後(f)には合焦していることがわかる.

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参考文献
- Hiromasa Oku, Soshiro Makise, Masatoshi Ishikawa : High-Speed Autofocusing of Cells Using Radial Intensity Profiles Based on Depth From Diffraction (DFDi) Method, Journal of Aero Aqua Bio-mechanisms, Vol.3, No.1, pp.13-21 (2013) [Doi:10.5226/jabmech.3.13]
- Soshiro Makise, Hiromasa Oku, and Masatoshi Ishikawa : Serial Algorithm for High-speed Autofocusing of Cells using Depth From Diffraction (DFDi) Method, 2008 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2008) (Pasadena, 2008.5.23)/Conference Proceedings, pp.3124-3129 [PDF (4.1M)] *IEEE
- 牧瀬壮四郎,奥寛雅,石川正俊: 細胞の回折像を用いた高速オートフォーカスの走査型顕微鏡への応用, 第47回日本生体医工学会大会 (神戸,2008.5.8)/プログラム・論文集,pp.390-391
- 牧瀬壮四郎,奥寛雅,石川正俊: 回折像を用いた細胞群深さ位置の広範囲・高速推定手法, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'07 (ROBOMEC 2007) (秋田,2007.5.11)/講演論文集,1A2-N02
- Hiromasa Oku, Masatoshi Ishikawa, Theodorus, and Koichi Hashimoto : High-speed autofocusing of a cell using diffraction pattern, Optics Express 14, pp.3952-3960 (2006) http://www.opticsinfobase.org/abstract.cfm? URI=oe-14-9-3952
- 牧瀬壮四郎,奥寛雅,石川正俊: 回折像を用いた細胞群に対する高速なオートフォーカスの研究, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2006(ROBOMEC 2006) (東京,2006.5.28)/講演論文集,1A1-C28